砂漠の薔薇

その他いろいろ

この記事は2022年に書いた小説のスピンオフです。
加筆修正:2025年12月

私がこの小説を書き始めた10年前は、連日のようにシリアの内戦が報道されていました。そして今は連日のようにロシアのウクライナ侵略が報道されています。

ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、シリアのアサド大統領の妻アスマー・アル=アサドは、その美貌と慈善活動および教育問題に対する熱心さから、「砂漠の薔薇」と評されていました。欧米のメディアからは、「中東のダイアナ」と持ち上げられたこともありました。
ロンドン生まれのアスマ夫人は英語も堪能で、シリアのファーストレディーとして英語でメッセージを発信することも多かったので、欧米からの期待は高かったのです。
また、若き日のアサド大統領も強権主義の父親と違って、ウエスタナイズされていると考えられていたため、二人は欧米メディアからもおおむね好意的に受け止められていました。

子供に優しく話しかけるアスマ夫人
車椅子の高校生に、腰を折って話しかける大統領夫妻

2011年にはフランスのヴォーグ誌で特集が組まれたこともありました。(ヴォーグ誌の記事「砂漠のバラ」は、ウェブサイトにも掲載されていましたが現在は削除されています。)

2011年2月号のVogue誌に掲載された記事
タイトルは”A Rose in the Desert(砂漠の薔薇)”

一方で、彼女は自分を飾り立てることにも熱心でした。国民が苦しんでいる中、パリでブランド品を買い漁る姿が度々、目撃され、「中東のダイアナ」はいつしか「中東のマリー・アントワネット」と呼ばれるようになりました。

ーブル美術館を訪れたアスマ夫人
パリでランチに向かうアスマ夫人
洗練された装いから、ファッションアイコンともなっていた時期

2010年に始まった「アラブの春」を機に、アサド大統領は一気に強権政治へと舵を切り始めました。アスマ夫人も国民を弾圧する夫を支持し、沈黙も保つようになりました。欧米メディアはアサド大統領だけでなく、夫人の姿勢も批判しました。。

「アラブの春」は、2011年にチュニジアで起こった民主化運動です。若者らがSNSを使って、反政府デモや民主化運動を呼び掛けました。この運動は瞬く間に中東全体に広がり、一時は中東にも新しい時代が到来したかのように思えました。
チュニジアやエジプト、リビアでは一旦は軍事政権が崩壊しましたが、その後、各国の民主化運動は次々と頓挫し、長期にわたる内戦へと変化していきました。

シリアでもアサド政権が民主化運動を武力で制圧しようとしたことから、内戦が始まりました。政府軍と反政府軍の戦いは現在に至るまで、約13年も続いており、さらにそれにその他の武装勢力が参加することによって泥沼化しています。
日本ジャーナリストでも、内戦の取材中に命を落とされた方がいます。日本でも、山本さんと同僚の男性が敵に打たれながら逃げる映像が流れたので、記憶に残っている方もいらっしゃるかもしれません。

取材中に砲弾に倒れた山本美香さん

この内戦によって多くのシリア人がヨーロッパに流入し、内戦問題という別の問題も引き起こしました。

戦火から逃げ惑うシリアの子供
難民キャンプで冬を過ごすシリア難民の子供。
暖かいイメージがあるシリアだが、
冬は雪が降ることも珍しくない。特に、高地では寒さが厳しい。

数年前のBBCのインタビューで、アスマ夫人は政府による自国民の虐殺を否定していました。彼女は「もしも、何らかの理由でシリア国内にそういった残酷な行為が存在するのなら、それはとても悲しいことです。何の罪もないシリア国民が大量虐殺されているのだとしたら、国際社会はこれを見過ごしてはいけません」とも語っていました。

家族で誕生日を祝う大統領一家

自らも3人の子供を持つ大統領夫妻は、罪もない自国の子供たちが戦闘に巻き込まれ、死んでいっている姿をどのような気持ちで見ているのでしょうか。国民を守るべき国の指導者が、自国民を攻撃するなどあってはならないことだと思います。

そんなアスマ夫人ですが、5年前には初期の乳がんの摘出手術を受けました。今は快復し、公務に励んでいるようです。
(注:現在、アサド大統領一家はロシアに亡命しています。)

乳がん治療の影響で髪が抜け落ちたアスマ夫人

私はこの小説が将来、紛争地域の子供たちに届いて、夢と希望と慰めを与えられる日がくることを願っています。
子供たちは宝です。人と人が殺し合う ―― そんな悲しい環境で育った子供たちは、将来、どんな大人になるのでしょうか。それは私にはわかりませんが、どのような環境にあっても、子供たちの中にある善の光がなくならないことを私は信じたいです。どのような環境にあっても、若い命の中から「良い明日を信じる力」が完全に消えてなくなることはないと思いたいです。例え、それが小さな残り火となってしまったとしても、子供たちの心の中で燃え続けると思いたいです。

歳をとるにつれて、人は残酷な現実を学び、希望を失います。しかし、子供たちはどんな状況でも、希望を失わず、明日を信じられます。それが若い生命に備わった力だと思います。
この小説を読んでいる子供たち、どうか自分の中にある善の力を信じてください。どんな状況にあっても、希望を失わずに生きてください。そして、それを絶対になくさないと誓ってください。
そして、いつか自分たちが大人になった時には、暴力や武力で相手をねじ伏せるのではなく、平和な手段で問題を解決する道を選んでください。

これを読んでいる子供たちに伝えたいことがあります。人生は今、あなた方が考えているよりもずっとすっと長いです。あなた方はこれから、多くの善い人や悪い人に逢うでしょう。多くの出来事が起こり、多くのことに挑戦し、多くの問題と困難に直面し、少しの成功を味わうでしょう。
けれども、希望を失わない限り、やり直す機会は何度でも与えられます。やり直せるかどうかは、いつだって自分次第なのです。希望を持ち続けてください。心の中の善の残り火を消さないください。

紛争地帯に住んでいる人にも、平和な国に住んでいる人にも、人生の危機は同じように訪れます。
先にも書いたように、人生は長いのです。時には、もう立ち上がれないと思うほど、打ちのめされることもあるかもしれません。けれども、あなた方には何度もチャンスが与えられます。俯いたまま、じっと地面を見つめて過ごすには、人生は長過ぎます。人生の最後の日まで俯いて暮らすのではなく、立ち上がって、前に進むことを選んでください。

世界には悲惨な状況で暮らしている子供達がいっぱいいます。
彼らのために、こんな自分でも出来ることは何だろうと考えたとき、小説やエッセイを通してメッセージを発信することを思いつきました。戦争などの悲惨な状況に巻き込まれている子供たち、家庭環境に恵まれない子供たち、病気と闘っている子供たち、そしてもちろん幸せに暮らしている子供たちにも、勇気と希望を与えられるようなお話が書けたらいいなと思うようになりました。

残念ながら、私には文才はありません。しかも、恐ろしく遅筆です。しかし、心を込めて書いた文章には誰かの心を動かす何かがあると思っています。

最後に、この記事を読んでくれている大人たちにも伝えたいことがあります。
子供の頃、あなた方は何になりたいと思っていましたか。何に憧れていましたか。あの頃、あなた方が憧れていたヒーローやヒロインは、きっと、人々を助ける正義の味方だったのではないでしょうか。そして、あなたも大人になったら、そんな人になりたいと思っていたのではないでしょうか。

大人になった今、あなた方はやろうと思えば、なんでも自由にできます。今の自分たちに何が出来るか考えてください。やりたいことがあれば行動に移し、伝えたい言葉があればペンを取って下さい。
「ペンは剣よりも強し」という言葉があります。善い目的を持って書いた物であれば、必ず誰かの心を動かせるはずです。善の声は優しく静かな声でありながら、それでいて強く胸を打ちます。それは耳触りな声でもなく、大きな声でもありませんが、銃弾よりも深く心を貫ぬくのです。
これを読んでいる大人たち、世の中に向かって一緒に善の声で語りかけようではありませんか。

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