最近、ゴールド投資をする人が増えていますが、皆さんが保有しているゴールドはインゴットやコインのような実物のゴールドでしょうか?それとも、投資信託や純金積立のようなペーパーゴールドでしょうか?
ペーパーゴールドは少額から気軽に始められる点が魅力です。紛失や盗難のリスクもありません。その手軽さから、ゴールドに投資をする人の9割以上が、ペーパーゴールドを選んでいると言われています。
しかし、その手軽さの裏には、私たちが知らないある秘密が隠されています。
今回は、手軽さの裏に隠れたペーパーゴールドのリスクについてお話します。
ペーパーゴールドとは
ペーパーゴールドとは、実物のゴールド価格の値動きに連動する金融商品の総称です。代表的なものとしては、ゴールドの投資信託や純金積立などがあります。
投資の小ネタ ―「投資信託」と「株式」の違い
投資初心者がよく混乱するのは、「投資信託」と「株式」の違いです。
投資信託と株式は、似て非なるものです。
投資信託は、プロに資金を預けて(信託して)、お任せで複数の株、債券、金融商品などを選択・運用してもらう投資手法です。
リスクを分散するために、一つの投資信託には国内外の株や債券が何種類も詰め合わされています。ローリスクですが、その分、リターンも低くなりがちです。
投資信託は管理を人任せにしているので、保有している間はずっと、「信託報
酬」という管理費用を支払わなければなりません。
皆さんが株式だと思っているインデックスファンドは、株式の詰め合わせなので、実際には「株式」ではなく、「投資信託」に分類されます。
eMAXIS SlimシリーズのS&P500、オルカン、TOPIX、日経平均株価などは全て投資信託です。銘柄の選定も入れ替えも証券会社がしてくれます。
注:ゴールドの投資信託はそもそも企業の株ではなく、ゴールドです。したがって、ゴールドのETFは投資信託にあたります。
一方、株式は自分で投資先(企業)選び、直接投資をする投資手法です。
一つの企業に投資をするのでリスク分散はできませんが、その分、大きなリターンが得られる可能性があります。
株式は売買時のみ、売買手数料が発生します。
投資の小ネタ ― 投資信託と上場投資信託の違い
皆さんが金融系動画などでよく耳にする「ETF」は、上場投信信託のことです。投資信託の中でも証券取引所に上場しているものを指します。
ちなみに、eMAXIS Slimには、兄貴分のMAXIS シリーズがあります。構成銘柄はほぼ同じですが、こちらのほうは上場されています。
上場投資信託は株式のように、リアルタイムで取引できます。短期で頻繁に売買したい人に向いています。
投資初心者が「上場投信信託」と「投資信託」の違いを気にする必要はないと思います。
ペーパーゴールドは引換券
話が脱線してしまったので、ペーパーゴールドの話に戻ります。
ゴールドの投資信託や純金積立は、現物のゴールドを買う代わりに、ゴールド引換券を買うシステムです。
顧客が買っているのは、ゴールドそのものではなく、引換券なのです。
* ゴールドの投資信託にも、一定の条件を満たせば、実物のゴールドと引き換えられるものがあります。
例えて言うなら、人気のある福袋の引換券を、お正月前に購入しているようなものです。
客は3,000円~10,000円を払って引換券を手に入れますが、その時点では顧客の手元に福袋はありません。あるのは、引換券だけです。
しかし、客はその引換券には3,000円~10,000円の価値があると信じています。引換券は期日が来たら、福袋に変わるはずでした。
福袋の販売者と客を繋ぐのは、「信用」です。
しかし、その信用が土台から揺らいでしまったらどうなるでしょうか?

ペーパーゴールドは砂上の楼閣?
市場に出回るペーパーゴールドの量は、実際に金庫に保管されている現物のゴールドの量を遥かに上回っていると言われています。
証券会社や地金商は、ゴールドのETFや純金積立が「紙の上」だけではなく、現物に裏付けられているとしていますが、実際には、実物の裏付けがなくてもいくらでも発行することができます。
そのような事態を防ぐために、証券会社や地金商は定期的に外部監査法人による監査を受けなくてはなりません。
外部監査法人は証券会社や地金商の金庫や倉庫に入り、実物資産が正しく存在するか、数や重量を確認します。
しかし、「分別管理」の種類の種類によっては、この監査を行わなくても済む場合があります。
長くなりますので、分別管理の詳細については、別の記事で説明します。ご興味のある方は、以下の記事をご参照ください。

ペーパーゴールドと現物の量が一致しない?!
2025年末の田中貴金属のルール改定をきっかけに、「ペーパーゴールドと現物の量が一致しない」という疑念が一気に噴出しました。
SNS上では、「金庫の中に現物がない」ことを隠すために、地金商はあの手この手で現物の引き出しを制限しているのではないかと噂されています。
このような噂は何十年も前からありました。それは日本に限ったことではありません。
ペーパーゴールドと現物の量が一致しないと何が起こるか
世界最大のステーブルコインを発行するテザー社のビョルン・シュミットケ氏は、ゴールド投資の約98%は、ペーパーゴールドであり、実物のゴールドを買っている人は少ないと指摘しています。
現在、市場に出回っている数十億ドルのゴールドは、実質的には「ペーパーゴールド」です。
シュミットケ氏はゴールド市場の大半が、物理的な存在のない「紙の金」であることに警鐘を鳴らしています。
本来であれば、ペーパーゴールドは証券会社または地金商の金庫に保管さている実物のゴールドと1対1で紐づけられていなければなりません。
しかし、シュミットケ氏は実物のゴールドと1対1で紐づけられているペーパーゴールドはほんの僅かだと言います。
テザー社とは
ここで、なぜテザー社がこのような主張をしているかについて考えてみましょう。
テザー社(Tether Limited)は、世界最大のステーブルコイン「USDT」を発行・管理する企業です。
また、テザー社はステーブルコインだけでなく、テザーゴールドという実物のゴールドに1対1で紐づけられているデジタル資産も発行しています。
テザー社が長年、ペーパーゴールドの危険性に警鐘を鳴らしているのは、裏を返せば自社のテザーゴールドがいかに安全で優れているかを宣伝するためでもあるのです。
テザー社はスイスアルプスの核シェルターに、約146トン以上の現物金を保管しています。民間企業としては世界最大の保有量であるだけでなく、国レベル(小国の中央銀行に匹敵する規模)の保有量でもあります。
冒頭で、富裕層はペーパーゴールドを買わないと言いましたが、大量のゴールドを保有する富裕層にとっては、テザーゴールドは保管コストや安全面でメリットが大きいのでしょう。
テザー社の本業はステーブルコインの発行です。しかし、そのテザー社がここ数年、大量のゴールドを買い漁っています。
ドルの信認を裏付けるステーブルコインの発行元が、ゴールドを買い占めているのはなぜでしょうか?
それは、ドルの価値が下落しつつあるからです。ドルだけに依存せず、どちらに転んでも生き残れる戦略を取っているのはさすがです。私たち素人も見習いたいですね。
現在のペーパーゴールドのシステムは、数十年にわたって滞りなく機能してきました。また、投資家の多くも実際の引き渡しを要求しませんでした。
そのため、制度上の穴があっても、誰も対処しようとはしなかったのです。
しかし、大きな金融危機が起これば、このような穴だらけのシステムは一気に崩壊するとシュミットケ氏は警鐘を鳴らしています。
株が大暴落したり、通貨の価値が一気に下がったら、人々はペーパーゴールドを実物のゴールドに換えようとするでしょう。
人々が一斉に現物の引き出しや交換を求めてきた時、今の制度で対応できるでしょうか?
世界の金はどこに眠っているのか
地金商やネット証券の金庫に少量のゴールドしかないとすれば、本物のゴールドはどこにいったのでしょうか?
人類がこれまで採掘したゴールドの量は、約20万トンです。これらのゴールドは、以下のような用途に用いられてきました。
何らかの用途に用いられなかったゴールドは、インゴットとして各国の中央銀行の金庫の中に眠っています。

ニューヨーク連邦準備銀行
世界最大のゴールドの保管施設は、ニューヨーク連邦準備銀行です。
ニューヨーク連銀には、6,331トンものゴールドが眠っているとされています(2024年時点)。 日本円に換算すると、約103兆円です。
これらのインゴットは世界各国の中央銀行や国際機関から委託されたものです。その中には、日本銀行が保有するインゴットも含まれています。(ニューヨーク連邦準備銀行に、個人や企業が預けることはできません。)


イングランド銀行
世界で2番目に大量のゴールドを保管している機関は、イングランド銀行です。
ロンドンのシティが世界金融の中心だった19世紀には、「世界の銀行」としての機能を果たしていました。
イングランド銀行には英国政府の金準備だけでなく、世界各国の中央銀行や国際機関のインゴットが保管されています。
保管されているインゴットの量は約5,100トン、日本円に換算すると約38兆円です。


フォートノックスの謎
問題はアメリカのフォートノックス基地内にある金銀塊保管所です。そこには、連邦政府の国家資産として約4,570トン(約95兆円)のゴールドが保管されています。


ゴールドはその国の国力を表す
1971年にニクソンが金本位制度を廃止して以降、アメリカは金の裏付けがなくても自由に通貨を発行できるようになりました。
* 金本位制度:中央銀行が通貨を発行する際に「通貨と同等の金」を準備し、通貨の価値を担保する制度です。
しかし、アメリカでは現在もドルの価値を担保するために、フォートノックスに大量のゴールドを保管しています。
連邦政府が毎年、大量に刷っている紙幣は約13兆〜17兆円ですので、フォートノックスにあるゴールドは毎年、発行される通貨の約5.5年分でしかありません。金本位制度が続いていたら、明らかに帳尻が合わなくなっていたでしょう。
金本位制度は廃止されましたが、それでもフォートノックスに保管されている大量のゴールドがドルの信認を裏付けるために重要な指標であることに間違いはありません。
なぜなら、簡単に刷れてしまう通貨と違って、世界中どこへ行っても価値の変わらない現物のゴールドを大量に保有していることは、その国の国力の高さを示すからです。

金本位制度の廃止を発表したニクソン
フォートノックスの金庫は誰も調べない
しかし、肝心のフォートノックスには、1974年以降、公的な外部監査が一度も入っていません。そのため、「公表されているゴールドの量と、実際に保管されているゴールドの量が一致していないのでは?」との憶測を呼んでいるのです。
歴代のアメリカ大統領は選挙の公約として、「フォートノックスの監査」を挙げてきました。しかし、就任後、実際にフォートノックスの監査を行った大統領は一人もいません。
これに歩調を合わせるように、歴代の財務長官たちも「フォートノックスの外部監査は必要ない」との見解を示しています。
まるで関係者全員が外部監査を拒んでいるようです。
イーロン・マスクが世論を動かした
これに対して、2025年2月、当時の政府効率化省(DOGE)のトップだったイーロン・マスク氏がフォートノックスの監査の必要性を訴え、世論が大きく動きました。

2025年2月11日
それに追い打ちをかけるように、2026年5月にCIAの元職員がCIAの保有するゴールド約4000万ドル(約60億円)を横領する事件が発生しました。
こうした動きを受けて、2025年5月には、トランプ大統領自身が実際にフォートノックスに赴いて、「金塊が本当にあるか確かめたい」と発言しています。
しかし、2026年になった今でも、トランプ大統領の査察は実現していません。
どうやら、フォートノックスの金庫は不可侵領域のようです。
時計の針は1973年で止まったまま
さらに、フォートノックスにはもう一つの謎も隠されています。
フォートノックスに保管されている金の評価額は、なぜか今でも1973年に定められた法定価格(1トロイオンス=42.22ドル)に基づいて算出されています。
現在の価格に換算した正確な評価額は、誰にも分りません。
まとめ
「歴史は繰り返す、一度目は悲劇として、二度目は茶番として」
この言葉を遺したのは、ドイツの思想家カール・マルクスです。

カール・マルクス
人類はその歴史の中で、何度も同じ過ちを繰り返してきました。今の金融市場でも、また同じ過ちが起こりそうな気配がしています。
新しい技術に熱狂する群集と過剰な設備投資、レバレッジ、素人投資家をカモにする金融商品、etc.
マルクスは「一度目は悲劇、二度目は茶番」と言いましたが、当事者にとっては一度目も二度目も悲劇です。
私たち一般投資家は歴史レベルの悲劇に対しては何の力も持ちませんが、個人レベルではできる事があります。それは、金融の仕組みや市場の原理を理解することです。
知識はゴールドよりも価値があります。知識があれば、ゴールドを買うことができますが、ゴールドがあっても知識は買えません。
しかし、知識は一朝一夕には増えません。根気が必要です。時には、難しくて、学ぶのが嫌になってしまうこともあるでしょう。
踊子は難しい投資の知識を、できるだけ分かりやすく伝えたいと思っています。私も金融知識ゼロの状態から勉強を始めました。皆さんが疑問に思うことは、踊子自身の疑問です。皆さんが躓く箇所は、踊子自身の「躓きの石」です。
諦めずに、踊子と一緒に少しずつ前に進んでいきましょう。
今回の記事はいかがでしたでしょうか。皆さんのお役に立てれば幸いです。
ここまで、ペーパーゴールドのリスクについて長々と述べてきましたが、今すぐにペーパーゴールドのシステムが破綻すると言っているわけではありません。時間はまだあります。
ペーパーゴールドは非常に便利なシステムです。盗難や紛失の心配もなく、NISA口座で購入すれば非課税にもなります。非常に合理的です。
上手に使えば、一定の利益を得られるかもしれません。しかし、何事も盲信しすぎるのは危険です。今のうちから、ペーパーゴールドのメリットとデメリットの両方を把握しておきましょう。
ちなみに、踊子はゴールドの投資信託を少し買っています。今は少し含み損が出ている状態なので、プラスに転じるまでは売らずに持っているつもりです。
しかし、そう遠くない将来、手放すつもりでいます。
今回、この記事を書くにあたって色々と調べた結果、踊子自身はメリットよりもデメリットのほうが大きいと判断しました。
しかし、それとは正反対の見方をする方もいらっしゃるでしょう。皆さんも、この記事を鵜呑みにするのではなく、ご自分で調べ、考えてみてください。
皆さんのご意見をコメント欄で教えていただけると嬉しいです。
* 投資は自己責任でお願いします。
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